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京都地方裁判所 平成6年(わ)977号 判決

裁判所書記官

竹内忠昭

本店の所在地

京都府亀岡市田野町芦ノ山流田一番地の四

株式会社松園荘

(右代表者代表取締役 奥村幸江)

本籍

京都府亀岡市篠町王子市原五〇番地

住居

同市田野町芦ノ山流田一番地の四

会社役員

奥村幸江

昭和一八年一〇月一三日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は検察官浦文計、私選弁護人国府泰道及び田中厚出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社松園荘を罰金一三〇〇万円に、被告人奥村幸江を懲役一〇月に処する。

被告人奥村幸江に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社松園荘(以下「被告人会社」という。)は、京都府亀岡市田野町芦ノ山流田一番地の四に本店を置き、資本金八〇〇万円で料理旅館を営んでいるもの、被告人奥村幸江(以下「被告人奥村」という。)は、昭和五五年ころから平成七年一月三日までは被告人会社の専務取締役として、同月四日からは被告人会社の代表取締役として、被告人会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人奥村は、被告人会社の業務に関して、法人税を免れようと企て、現金売上金のうち、売店売上等を除外し、更に架空の仕入れを計上するなどの方法により所得を隠匿した上

第一  平成二年四月一日から同三年三月三一日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額が一億二四七五万四一七七円であったのにもかかわらず、同年五月三一日、京都府船井郡園部町小山東町溝辺二一番地の二所在の所轄園部税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二五一〇万五六六八円で、これに対する法人税額が八一四万七一〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額四五五一万五四〇〇円と右申告税額との差額三七三六万八三〇〇円を免れ

第二  平成三年四月一日から同四年三月三一日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額が九二〇七万一二〇二円であったのにもかかわらず、同年六月一日、前記園部税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二三四二万八九九〇円で、これに対する法人税額が六九二万三一〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額三二六六万四三〇〇円と右申告税額との差額二五七四万一二〇〇円を免れた

ものである。

(証拠)

括弧内の番号はすべて検察官請求の証拠番号を示す。

判示事実全部につき

一  被告人奥村の公判供述

一  被告人奥村の検察官調書(検30、48から50)及び大蔵事務官調書(検31から34、36、45、46)

一  奥村亀市の検察官調書(検17、ただし二丁裏一〇行目から三丁表四行目まで及び四丁表五行目から一〇行目までを除く。)及び大蔵事務官調書(検16)

一  奥村政之の検察官調書(検28、ただし三丁表六行目から同丁裏九行目までを除く。)及び大蔵事務官調書(検27)

一  秋田美代子の検察官調書(検19)

一  奥村一男の大蔵事務官調書(検53、54)

一  査察官調査書(検7、8、9のうち八丁から一〇丁までを除いたもの、10のうち四丁及び五丁を除いたもの、11から13、15、51)

一  電話聴取書(検6)

一  登記簿謄本(検26、52)

判示第一の事実につき

一  法人税確定申告書謄本(検2)

一  脱税額計算書(検3)

判示第二の事実につき

一  査察官調査書(検14)

一  法人税確定申告書謄本(検4)

一  脱税額計算書(検5)

(法令の適用)

被告人両名の判示各所為は法人税法一五九条一項(被告人会社については、さらに同法一六四条一項)に該当するところ、被告人会社については情状に鑑み同法一五九条二項を適用し、被告人奥村については所定刑中懲役刑を選択することとし、以上は平成七年法律第九一号による改正前の刑法四五条前段の併合罪であるから、被告人会社については同法四八条二項により合算した金額の範囲内において罰金一三〇〇万円に、被告人奥村については同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一〇月にそれぞれ処し、被告人奥村に対し情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、判示のとおり、被告人会社の専務取締役であった被告人奥村において、被告人会社の現金売上金のうち、売店等の売上等を除外し、架空仕入等を計上するなどの方法により、二事業年度にわたって被告人会社の支払うべき法人税額のうち合計六三一〇万九五〇〇円をほ脱した事案であるところ、被告人奥村は、「税金はお付き合い程度に納めておけばよい。」との誤った納税意識のもと、被告人会社の収益をなるべく設備資金等のために蓄えておきたいとの考えから本件犯行に至ったものであり、その動機に酌むべき点はなく、また、そのほ脱金額も、前記のとおり多額である上、ほ脱率も約八〇パーセントと高率であって、これらからすれば、被告人両名の刑事責任は軽いとは言えない。

しかしながら、被告人会社は、本件について、いずれも正規の法人税額を支払ったほか、所定の延滞税合計一二一八万円、重加算税合計二五四〇万円を既に支払い済みである上、被告人奥村は、本件を深く反省し、売上除外に係る現金のうち被告人奥村個人名義の不動産の購入資金として使われた分については、右不動産の登記名義を被告人会社に移すなどし、また、新たに選任した顧問税理士の指導のもとに売店等の売上を含めて正確に記帳されるよう経理事務を整備し、被告人会社の代表者として再犯の防止に努めているなどの情状も認められるので、これらを総合考慮して、被告人両名には、主文掲記の刑を科した上、被告人奥村については、その執行を猶予するのが相当と判断した。

(求刑 被告人会社 罰金二〇〇〇万円、被告人奥村懲役一年)

(裁判官 岩倉広修)

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